第12話 空所者という考え方

私は、最初から物欲の少ない人間だったわけではない。

むしろ、その逆だった。

欲しい物があれば探し回った。

限定品なら手に入れたくなった。

好きなものは集めた。

一度好きになったものには、惜しみなく時間もお金も使った。

そんな自分だったからこそ、長い年月をかけて物との関係を考えることになった。

そして、ようやく一つの答えに辿り着いた。

大切なのは、物を持たないことではない。

物に支配されないことだ。

私は、物を全て否定したいわけではない。

好きなものを手に入れる喜びは知っている。

憧れていたものを迎え入れた時の感動も知っている。

だからこそ、所有すること自体が悪いとは思わない。

問題なのは、いつの間にか物が自分の人生の中心になってしまうことだ。

欲しいから買う。

限定だから買う。

失うのが怖いから残す。

持っている数で好きな気持ちを証明する。

そうやって、物のために時間や自由を失っていく。

かつての私は、まさにその状態だった。

しかし、様々な経験を重ねる中で気付いた。

本当に大切なのは、所有する量ではない。

自分の人生に、どれだけ必要なものなのか。

今の自分に、本当に意味があるものなのか。

そこを見極めることだった。

私はこの考え方を「空所者」と呼ぶことにした。

空所者とは、何も持たない人間ではない。

空っぽになることを目指すものでもない。

必要以上の物や執着で、自分自身のための空間を失わない生き方である。

物理的な空間だけではない。

心の余白。

時間の余白。

人生の選択肢。

それらを取り戻すために、不要なものを手放していく。

だから空所者にとって、手放すことは失うことではない。

本当に大切なものを大切にするための選択なのだ。

かつて、私は欲しい物を全て手に入れようとしていた。

しかし今は違う。

全てを所有する必要はない。

本当に必要なものだけがあればいい。

それは物を軽視する考えではない。

むしろ、一つ一つの物と丁寧に向き合うための考え方である。

物欲に支配された人生を経験したからこそ、見えた答え。

それが、私にとっての「空所者」という生き方である。

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