第1話 私は物欲のしもべだった

もし20年前の自分に、

「いつか物欲がほとんど無くなるよ。」

と言ったら、私は笑って否定しただろう。

「そんな日は絶対に来ない。」

本気でそう思っていたはずだ。

それほど私は物欲の強い人間だった。

いや、今振り返れば私は物欲のしもべだった。

Amazonが当たり前ではなかった時代。

まだ自動車免許も持っていなかった私は、自転車で何軒もの店を巡っていた。

ゲームショップ。

玩具店。

書店。

家電量販店。

「あそこなら何かあるかもしれない。」

「今日は入荷しているかもしれない。」

そんな期待を胸に、休日になると店から店へ走り回った。

欲しい物は、意地でも手に入れたかった。

ただし、一つだけ絶対に譲れない条件があった。

新品であること。

中古専門店には最初から興味が無かった。

ゲームショップへ行っても中古コーナーには立ち寄らない。

フリマサイトを利用するようになってからも、探していたのは新品未開封品だけだった。

私にとって価値があったのは、「持つこと」ではない。

新品を自分の手で迎え入れることだったのである。

限定品という言葉に心が躍った。

初回特典という言葉に弱かった。

コンプリートという言葉には抗えなかった。

トレーディングカードを自力でコンプリートするために、何十箱もBOXを購入した。

付録を揃えるためだけに、同じ雑誌を何冊も買った。

限定版や初回特典を手に入れるためだけに、同じシリーズの商品を複数購入したことも一度や二度ではない。

ゲーム、アニメ、アイドル、ホビー。

好きになれば一直線だった。

ゲーム雑誌。

アニメ雑誌。

ホビー雑誌。

アイドル雑誌。

好きな人や作品が雑誌の片隅にほんの少し掲載されているだけでも、その一冊を迷わず購入していた。

そして、それらをほとんど捨てることなく保管していた。

今思えば、貯金が無かったのも当然である。

給料が入れば、まず考えるのは趣味に使うお金だった。

新しい商品情報を追い続ける。

発売日を楽しみに待つ。

限定品は予約する。

部屋に空きスペースができれば、次は何を置こうかと考える。

私は趣味を楽しんでいるつもりだった。

もちろん、その時間は今でも大切な思い出である。

しかし今振り返ると、趣味そのもの以上に、**「欲しい物を手に入れること」**が目的になっていた瞬間も少なくなかったように思う。

「好きだから買う。」

その言葉に嘘は無かった。

だが、その裏では、

「限定だから。」

「初回特典だから。」

「コンプリートしたいから。」

そんな気持ちも、確かに私を動かしていた。

だから私は、今でも当時のオタクやコレクターの気持ちが痛いほど分かる。

私も、その世界の住人だったからだ。

いや、誰よりも深く、その世界に浸かっていたと言ってもいい。

だからこそ私は、今の考えを語ることができる。

最初から物欲の少ない人間だったわけではない。

物欲に人生を支配され、その先まで歩いた人間だからこそ見えた景色がある。

しかし、そんな私の価値観を根底から覆す出来事が起こる。

私は、生涯変わらないと信じていた「好き」という気持ちが、ある日突然変わるという経験をした。

その出来事が、後に「空所者」という考え方を生み出す原点となる。

その話は、次の記事で書こうと思う。

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